イリアス観劇を終えて
2010年9月9日(木)
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9月6日(月)と9日(木)の2日間にわたり、ヨハネ生は、ル・テアトル銀座にて行われた舞台劇『イリアス』を観劇し、映画とは一味違った生の演技に触れ、劇場と一体となる感激を体験しました。

舞台は、紀元前8世紀に吟遊詩人ホメロスによってまとめ上げられたといわれる「イリアス」。 トロイア戦争10年目の最後の数十日間のギリシア軍とトロイア軍の戦いの叙事詩です。 トロイア王プリアモスの娘カッサンドラが城内で「人はなぜ戦うのか」と歌い、5人のコロスたちがそれまでの 10年間を歌と踊り、語りで伝える場面から始まりました。迫りくる数千人の軍勢、剣の音、兵士たちの雄たけび、 炎までも語りによって描き出してしまう言葉に圧倒されました。そして、アキレウスの怒り、 プレアモス王の悲しみの場面では劇場全体が怒りや悲しみに包まれる、そんな体験でした。

これまでヨハネ研究の森では、昨年から人類史をテーマにさまざまな角度から「ヒトって何?」「歴史って何だろう」 と問い、検討を重ねてきました。サマースクールでは歴史学者の岡田英弘先生をお迎えし、歴史は、 人間の住む世界を時間と空間に沿い、一個人の体験を超えて把握すること。 そして、歴史は文字による記録であるという歴史の視点からお話をいただきました。 それは、ヨハネ研究の森の基本の探求でもある、ことばとはなにか、という問いの探求にも重なるものでした。

今回の観劇は、文字のない時代のことをホメロスの書いた『イリアス』の描く世界を現代の日本で再現する試みだったと思います。 劇場全体がひとつになるような感動と共に、人物の語り口に違和感があったという感想もありました。 それは、文字を持ってしまった私たちが、文字のない世界に生きる、ホメロスの時代の人たちの感覚との間に 感じるギャップだったのではないでしょうか。このことは、文字とはなにか、ことばとはなにか。 ヨハネで大切にされている学びの根本に入り込んでいく大切な経験の一つになったのではないかと思います。

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