日本人漢民族説と日本国家誕生
2010年8月2日(月)
サマースクール最終日の8月2日、ヨハネ生は東京工業大学で行われた日本進化学会に参加しました。 そこでは丸山茂徳先生が「日本人漢民族説と日本国家の誕生」という講演をしました。 民族とはなにか、国家とはなにか。そして、丸山先生が語る「日本人の起源」とは。

「民族」の定義

東京工業大学の丸山です。地質学が専門ですが、今回は「日本人漢民族説と日本国家誕生」という話をします。

漢民族というと驚く人もいるので、まず定義から入ります。民族とは何でしょう。 今、アメリカに住んでいる人はさまざまな場所から来た人です。アメリカ人という人種はいない。 そこはさまざまな人種が集まった人工的な国家です。同じように中国人という人種もいない。 中国は56の人種からなる。単一の人種ではない。同様に日本人という人種もない。 日本人には縄文時代から住んでいた人もいれば、弥生時代、その他の時代から住み始めた人たちもいる。 これらと同様に、実は漢民族という民俗も厳密には存在しない。

中国では身分証明書に民族名を書かなければならない。ほとんどの人が漢民族と書く。 これは今の中国文明を作り上げた漢民族になりたいという、人々のあこがれの表れである。 民族とはDNAによって決まるのではない。日常的に文化的なものを引き継いでいるかどうか。 例えば服装など古来の伝統的文化を踏襲しているかどうか。これで民族が決まる。

ここでは広義の意味で、中国の文化を作った民族を漢民族とします。 公的には90パーセントが漢民族だが、狭い意味では20パーセントに満たないと推測される。 狭義の漢民族でも実はDNAで定義されたものではない。


国家とは何か?

次に国家とは何かについて話をします。 何を持って国家といえるのか。豪族の集団と国家の違いは何か。 それは国勢調査ができるかどうかで決まる。どこに誰が何人家族で住んでいるか調査して確認する。 そのためには律令制度が必要。律令制度は政治・経済・教育・そして文字をもたないとできない。 日本がそういうレベルまできたのは奈良時代。奈良時代につくられた省庁の多くは今でもそのまま残っている。 それらは701年の大宝律令から本質的に変化してない。

渡来人とは何か。これをモダンアナログで考える。 現在、江戸川区にインド人が数千人いる。400年でだいたい20世代。 もちろん400年後の人々は日本人になっている。彼らは先祖の言語もわからない。 もし混血をしていなければ人種的にはインド人である。

2800年前、日本に第1世代の渡来人がやってくる。彼らも来た時は渡来人といえるが、末裔は日本人と呼ばれる。 混血してしまえば日本人としかいいようがない。実は混血は宿命である。


気候変動で民族が移動する

2800年前と4世紀に地球規模の寒冷化が起きた。 まず寒くなると緑が後退する。すると遊牧民は北の地域の緑が少なくなるから南下せざるを得ない。

逆に暖かくなると牧草地が増えて遊牧民の人口が増える。気候変動によって民族は大移動するという宿命がある。 寒冷化の時、ゲルマン民族が南下したり、遊牧民が1万キロほど移動してトルコという国を作ったりする。 このような激動期に、日本がそのまま無事、済むはずがない。


稲作による人口爆発

東アジアでは、黄河と揚子江に人口が集中していた。寒冷化が起きると遊牧民が南下してくる。 数百万人が黄河の下流域か長江に移動してくる。その後日本にやってきた人もいたに違いない。 どれだけの渡来人が日本にきたのか。2800年前の寒冷化の時、日本は縄文時代で狩猟生活が中心だった。 もちろん一部では定住生活もしていた。この頃の人口は30万人ぐらい。そして最寒冷期には人口が数万人まで落ち込む。 このような大変動の時、渡来人によって稲作が持ち込まれる。 すると人口は50万人に急増する。稲という作物は総合栄養食品。非常に多くの人間を養うことができる。 だから稲作は人口の爆発的な増加を招く。

次の寒冷化は4世紀頃。4、5世紀に、数約万人の渡来人が日本にやってくる。 ちょっと想像してほしいが、東京に数百万人の渡来人がきたらどうなるか? 食糧問題がすぐ起きるのはわかるでしょう。すると次に何が起きるか。殺し合いが起きる。 その時奴隷になるか、それが嫌なら東に逃げるしかない。なぜ東に逃げるのか。 稲作ができて、食料が大量にとれるのは平野。九州には平野は少ない。だから平野を求めて東へ移動していくしかない。

次いでに言うと文明にとって鉄は大切。鉄の鉱床がローマ、メソポタミア、インドにはない。 あるのは黄河河口。ここは多くの鉄が作れる地域。もし青銅地域のローマと鉄がつくれる漢が戦争していたら勝負は見えている。 その他、鉄は農業にも使える。木で農耕するのと鉄でやるのでは生産性が違う。 そこから中国が宇宙の中心という中華思想が生まれる。


アメリカ国家の形成と日本

ヨーロッパの人々がアメリカに渡り始める。ひとつの人種ではないので、入植地は虫食い上にできていく。 それぞれの入植地では違う言語を話していたが、だんだんそれが統一されていく。 言葉が英語になって、何世代かしたらみんな昔使っていた言葉を忘れている。 私たちが江戸時代の言葉を忘れているのと同じ。アメリカは最終的に南北戦争で統一される。 モダンアナログを使うと、日本はアメリカと同じだとわかる。

寒冷期の2800年前、大陸で遊牧民が南下する。人間の玉突き移動が起きた。 それで日本に渡来人がやってくる。渡来人は鉱床の探査技術と精錬法を伝えた。 そして仏教や建物建築の技術、そして漢字も伝えた。渡来人といっても一つの人種ではなく複数の人種なので、違う言語を使用していた。 だから異なった場所に植民していく。これがそれぞれの地域を支配する小豪族になっていく。つまり豪族の起源は渡来人。利益の独占をした蘇我氏も中臣氏(藤原氏)ももともとは渡来人。すると広い意味での漢民族が日本人の祖先といえる。さらに詳しい内容は本になる予定です。