丸山先生公開講座
2010年9月26日(日)


丸山先生は、この1年間、ヨハネ研究の森の生徒たちと同じ課題に取り組もうと、「日本の歴史」を独自の切り口で研究してきました。

日本の歴史学の先行研究をふまえ、重要な概念を規定し、独自の観点から新たに捉えなおしていく。それによって、これまで分からなかった「歴史を動かす原動力」を明らかにしていきます。
日本人の起源を「漢民族」と呼ぶ丸山先生は、それがどのような人たちだったのかということを「民族とは何か」、「国家とは何か」、「渡来人とは何か」を1つ1つ定義して、描き出していきました。
そして、彼らが過去3000年の気候変化の中でどのように動いてきたのかを、古気候や世界の地質のデータを用いて、総合的に解き明かしていく。 丸山先生が描く、独自の歴史から、21世紀の危機が見えてきます。

専門化し、細分化していく学者の世界を縦横無尽に駆け回る丸山先生。世界の最先端で活躍する研究者が新たな分野にどうやって切り込んでいくのか。その戦略、考え方を直接聞くことができるという貴重な機会を得て、ヨハネ生は丸山先生の期待に応えようと発奮し、自主的にグループで話し合いを行っていました。
ここでは、「日本人漢民族説と日本国家の起源」の講義の後の丸山先生との質疑応答を掲載します。


世界の歴史をどう描く

木村 世界っていうのは、中国とかアフリカとかアメリカとかイギリスがありますよね。 その歴史をどうやってまとめればいいですか?

丸山先生 人間の歴史の中で起きたことを何年に何が起きたと基本的には戦争の歴史を年表に書いてあるだけだ。

我々が一番知りたいことは、なぜそういうことが起きたのかという原動力が知りたいんだ。 その原動力を知ることが世界史の一番おいしい部分。

まだ誰もそのことを捉えた世界の歴史を書いていない。 歴史を動かしたのはこれだ!というのを君が書くことができるチャンスがあるんだ。


モダン・アナログという手法

大場(さ) ヨハネで観た映像では、縄文人と弥生人が平和に混血していったと描かれていましたが、 丸山先生はそうではなかったとお考えなのでしょうか。

丸山先生 観測事実は、もともとこの国に住んでいた人、アイヌ系、クマソ系を比較すると大きな差がある。 これは、渡来系の人が彼らとは混ざらなかったことを意味している。 遺伝子を見る限り、混血していない。これは、アメリカと同じですね。 白人はインディアンとどれだけ混じったか。 これは少ない。インドの人がアメリカ国籍を取得しても、ほとんど混ざらない。 民族は隣に置いたら混血が進むかというと、そうではないのです。

国家形成のモダン・アナログ。 日本の国家ができたのは1000年以上前。誰も見たことがない。 これは、最近アメリカで起きたことと同じなのだと考える。

みんな違うところから来て、違う文化を持って、違う言葉をしゃべっていた。 アメリカも最初みんな違うところから来て、違う場所に村を作って生きていた。

ところが、時間がたつと言語の統一をしようということになる。 そして、最後にアメリカは独立戦争をして独立する。 日本も奈良からの独立戦争した。「大阪戦争」。 これは僕が名前をつけたのですが、そうやって日本が一つになっていくというプロセスを経た。 時代は違うけど、同じことが日本に起きていたのです。


デッド・コピーからはじめる

保護者 日本人の起源は漢民族ということですが、日本語はどのようにできたのでしょうか。

丸山先生 日本語のもととなったのは、呉音で、漢音、訓音。厳密に言うと宋音があったらしい。 日本は文字を持たなかった。総合技術を中国から日本は輸入して、やがて、 漢字を日本語化するのに助詞を発明する。カタカナ、ひらがなを発明する。 そして、律令国家をつくる。遣唐使をやめて、日本独自の文化や芸術が生まれた。 みんなデッド・コピーから始める。 学生もそう。すでに書かれた論文の真似をする。僕の知識を全部飲み込む。 そしたら、その次に、自分独自の世界を切り開く。 何も知識もなくて反感だけ持って、自分でやるというのは、無理なんだ。全部飲み込むこと。 体系的に知識を頭に入れていく。

そういう体系を組み上げるには、常に、友達と論争をすることだ。そうすると、負けたと思って、突っ張る。 それは重要なのだけれど、最後まで突っ張ったら墓穴を掘る。そういうことで、いろんな体験を重ねていくことが重要。




ベスト・フレンドを持て

今井(龍) 去年知的体系の話をお聞きして、総合的にとらえられれば何事でも判断することができると思ったのですが、 今あふれている知識、歴史をすべて受け入れることはできない。 知識をすべて自分のものにして、知識体系を作るにはどうしたらいいのでしょうか。

丸山先生 具体的に実践するには、知識の体系を作り上げるという作業をする。 そのときに、バランスのとれた木をつくる。 盆栽みたいなものではなくて、哲学の幹があって、自然科学の木、 社会科学の木とバランスよく毎日君たちは育てているんだ。それを死んでいくまで同じような作業をしていく。

これを具体的に実践するためには、周りのネットワークを自分で作り上げていかないといけない。 僕は今、ダーウィンの進化論は全部わかった。あと5年でゲノムも全部わかる。 そうやって、自分の外に知の体系をつくるには、ベスト・フレンドを作るしかない。 「こいつが言うことは無条件に信じられる」という友を持つこと。 そのためには、お互いに求められる関係でなければならない。

だから、まず何かの分野で一番になること。そうすると引力があって引き合うようになる。 君は、進化学会の時も質問に来ていたので、そういう意志が強いというのを感じている。 それをずっと持ち続けたら僕を越えていけるでしょう。


追いつめられて進化する

橋場 僕が疑問に思ったことは、なぜこんなに中国が大国なのかということです。文明が花開いたのはなぜなのか。

丸山先生 中国はここに6000万人いた。そして、寒冷化で、1000万人まで人が減った。 知恵を絞らないと生き残れない環境があった。常に食料が確保されているところは、保守的だけれど、 外側からの外力が与えられて、そのままだと死ぬと思うとゲノムレベルで変化が起こる。

大量絶滅が起きたあとの生き残った生物たちが、どうやってゲノムを発揮したか。 過酷な状況に追い込まれたからだ。日本人は、のほほんと暮らしていた。 日本ほど美しいところはないと住み着いた人たちがいるけど、そういうところでは自発的に文明は生まれない。

生きるか、死ぬかを繰り返すとそこから文明が生まれてくる。そういう自然にさらされたところで文明が生まれる。 

原理とは何かと言うことをいつも考えながら、生き方を考える。未来とはなにかということを考えて生きる。 産業革命にうまくついていけなかった。中国3000年の歴史最大のミス。今は、追いついて自信満々。 日本は、一度も出たことがなかったけど、150年前に真っ暗なところにロウソク1本持って 「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と出ていった。だけど、長期的には、暗くなることが分かってきただろう。 これからの時代、君たちはどうするか。

自分自身がどうするか、そして、日本人はどうするのかという方向を誰かが示さなければならない。 その次に、人類がどこに向かうかということを目指さねばならない。この三段階が必要。

今、円高で日銀が介入するだろう。円高でもいいじゃないかという人がいる。 1万円で2万円分遊べる。結構ではないかと。これについてどう思う?

中内 円が流出すると困る。

丸山先生 それは一つある。他には。

今井 トヨタなどのように、輸出をしている会社が回らなくなる。

丸山先生 この国の食糧自給率は六〇パーセント。外国からたくさん食料を買っている。 その食料はどうやって買うか。車を売ってお金を稼いでいるんだ。 それが売れなくなると、お金が入ってこないだろう。そうするとどうなるか。

会社はみんな中国に行く。工場を外国に置く。そうすると九九パーセントは外国人の労働者。 円高だと全部会社が外に出ていってしまう。そうなると、日本の経済はガタガタになってしまう。

なのに、政治家の認識が甘い。総合的な体系的な知識がないので反応できないんだ。 何かが起きたらこうするという詰め将棋と同じで常に一万手ぐらい考えておくのがプロの政治家というもの。


丸山先生の生き残り戦略

吉野  研究の方法ということで、歴史を扱うときに気候と鉱床を持ち込む、それを聞いたときに、新しい視点、 方法論を持ち込んで、新しい議論の土俵を作ったということだと思うんです。 そういうときは他の研究者とはどう議論するのでしょうか。

丸山先生  僕の歴史は闘争の歴史だ。地質学の中でも、地球科学でも、たくさんの分野がある。 僕はまず、小さな分野の中でまずは日本一になろうと思った。そして、世界一になろうと。 すると、どんどん広がっていって、いろんなことを総合して新しい概念を作ろうと思った。

しかし、そうするとみんなが敵になる。ありとあらゆるものが飛んでくる。いろんな誹謗中傷が来る。 だいたい自分の指導教官からこんなものはダメだと言われる。木っ端みじん。それが一番目の試練。

どうしてそういうことが起こるんだろうということを考えて、共同体の法則性について考えた。 それは、僕がみなさんの利益を横取りしようとしてるように見えるということだった。 そういうときには、3発殴られたら5発殴り返す気力が必要。そして、もう一つ。 新しいジャンルに入ったときに、逃げ込む場所を作ることが必要。無謀な勇気は意味がない。

必ず、逃げ込む橋を作る。ちょっとやってみて、これはいけると思ったら攻め込む。 そういうことをしていて、僕は共同体の本能とは何かということを理解した。 後は、個人的な関係。そういう感情的なものに惑わされない。切り離すと。 闇雲に突っ走ったら、いろんなことが起きた。そこで、少し反省して、知恵を付けて、今、自然科学は征服した。

次に人文社会科学について、最後の一〇年で書こうと思った。 日本の歴史は、みなさんが一年間こういうことをやるとしたら、僕はこういうふうにするという 話をしたら役に立つだろうと思った。経験と経験から導かれる法則性。感情をない交ぜにしない。 そして、一番大事なのは勇気。


ヨハネ研究の森は現代の松下村塾

今井(龍) 丸山先生のパワーポイントの中の図で、気候と人類の発展についてのグラフがありましたが、 これを利用すれば人類を動かした原動力が分かるような年表が作れるのではないかと思いました。 そういうものを作るにはどうしたらいいのでしょう。

丸山先生 階層性というものがあって、この気候のグラフは時間の分解能が悪い。 とりあえず年輪を使って一年間隔で刻んでいった。こういう研究で何が重要か。 地球上の定点で測定する。学術論文を書くときに定点観測を二〇〇〇点やった論文は永遠に残る。

ブレークスルーするようなアイディアを思いつくためには、集中しないといけない。 集中というのはみんなが想像しているものはたぶんまだ甘い。本当の集中力は、毎日毎日、 寝てもその問題が夢に出てきて、夢の中で「解けた!」と思ったらガバッと起きる、それぐらいまでやることなんだ。 何かを集中的に考えるときの極意は、寝ているときに問題の答えがでる。そこまで行けば、こういう問題は易しい。

もう一つ、ほ乳類が登場したとき、バッタみたいな虫類がみるみる大きくなった。 そのとき、我々の祖先は、夜行性のネズミみたいなものだった。彼らは、生き残るために脳を発達させた。

脳はものすごくエネルギーを使う。そして、脳は使いすぎるとオーバーヒートする。 だから、睡眠時間少ないのを自慢しているのは大した学者にならない。睡眠はたっぷりとらないとダメだ。

今井(龍) 丸山先生が見ておられるようなものが見えてきたら、こう動かなければならないというのが出てくると思うんですけど、 浅はかなところで政治家が議論している。 なぜ丸山先生がそういうことを言っているのに、政治家がそれを取り入れないのか。

丸山先生 いくら知識があってもどうやってそれを実行するか。僕ができることは、本をいっぱい書いて、啓蒙することだ。

そして、僕ができる最大のことは何か。若い人たち。僕は、ヨハネ研究の森は、松下村塾みたいなものだと思っている。 吉田松陰の役割は徹底的に純粋に考えること。そして、犬死にしてしまうんだが、 その純粋さは問題の本質を一番明らかにして、世代を超えて革命を起こした。

吉田松陰の純粋さ、歴史的な自分の役割を考えていた。 第一世代は犬死にするが、犬死ににならないためには、問題のありかをできるだけ明確にして、引き継ぐこと。 僕がその第一世代の役割をできるかどうかわからないけれど、みなさんに問題提起をすること。 それが、僕ができるささやかな貢献かな。