
学校法人 暁星国際学園 学園長
暁星国際小・中・高等学校 校長 田川 茂
「真の国際人を育てたい」そんな思いで当学園を創立してから、はや35年の歳月がたちました。高度成長を謳い文句に当時の日本社会は、商社や銀行などが積極的に海外進出を開始していました。家族ぐるみで海外に赴任する日本人が急激に増え始めたのです。
ところが海外で育った子どもたちの多くは、帰国後、日本の学校生活になじめませんでした。特に日本の英語教育は、せっかく海外で身につけた人と人とが理解し合うための言葉としての英語も受験英語に変えなければならなかったのです。また、個性を生かすことより、みんなと同調することを良しとした風潮から、授業で自分の意見を積極的に言うと、生意気だと反感をかうこともありました。こうしたことから、彼らにとっては日本の学校生活は苦痛としかいいようがありません。私自身もスイスに留学していましたから彼らの気持ちは痛いほど理解することが出来たのです。
その当時、私は九段の暁星学園の小・中・高の校長でした。しかし、暁星学園はなにも私でなくても良いのではないだろうか。ほんとうに困っている子どもたちのために働かなくてはならないのではないかとかなり悩み苦しみました。私が修道院に入ったのは、世俗の生活をしていたら出来ないことをするためであり、私は私を必要とする子どもたちのために生きなければならないのです。たとえば、かつて暁星学園を創立したマリア会の宣教師たちが小さな部屋を借りて、昔の寺小屋のように子どもたちにフランス語を教え始めたように。私は、帰国子女を真の国際人に育てる教育を実践していくために、今までにない新しい学校を創ることを決意しました。
木更津の暁星国際学園はこうして設立されたのです。
そして今、世界中にグローバリゼーションの嵐が吹き、日本もまた大きく変わろうとしています。帰国子女という言葉も消え去りつつあります。国際人という言葉も又地球人という言葉におきかえてもよいくらいの時代になっています。それだけに心を通わすための言葉は、重要な意味を持ってくるのです。地球の共通言語になろうとしている英語も、単に英語を話せるだけでは地球人としてのコミニュケーションはできません。日本人としてのアイデンティティを持ち、正しい日本語ができることはもちろんのこと日本の文化、歴史、伝統を学ぶと同時に、世界の文化や歴史も勉強し、これらすべてを教養として身につけることが必要です。そして何よりも、これらの学びを通して自分が何のために存在し、生きるのかという哲学を持つということが求められてくるのです。
地球は今、このような知性ある地球人を必要としています。にもかかわらず、日本の子どもたちの多くは学習意欲を喪失し、溢れる情報の中で満たされることのない欲望を追い続け、虚しい日々を過ごしているではありませんか。彼らは父親を通して、母親を通してまた大人たちを通して何を見ているのでしょうか。大人たち自身が、自ら学ぶことによって教えるという当たり前のことが、今ではなされなくなったということでもあります。このことは特に教育者にとっては忘れてはならないことなのです。教科書の知識をただ子どもたちに覚えさせるということでは教育は成り立ちません。自らの学びなくして子どもに「勉強しろ」といっている親では教育はできません。生きることは学ぶことであるということを身をもって伝えることができてこそ教育が成り立つのです。こうした大人たちとの出会いと同時に人類が培ってきた膨大な知の遺産―書籍―に触れることによって、子どもたちは、堰を切ったように学びの意欲をわき起こします。そして、子どもたちの目は学ぶことのおもしろさで輝き始めることでしょう。1年もすると、それぞれの子どもたちの様々な才能が芽を出し始めます。その才能を生かすためのアイデンティティが形成されてはじめて教育の成果が生まれるのです。
書籍に囲まれた中で、優れた学びの伝道者とともに子どもたちが自ら学び、自らの未来を創り出していく……そんな教育環境こそが真の地球人を創り出します。「ヨハネ研究の森」はまさに人間が神から与えられた使命を具現化しようとするものなのです。
「ヨハネ研究の森」では、日本の社会でもっとも欠けている「学ぶことの意味」を言葉でなく身体で教える教育、そして自らが国際人あるいは地球人としての教養と哲学を修得出来る教育実践が行われています。2001年4月に開設して以来12年目を迎えておりますが、子どもたちは自ら学ぶことの大切さを経験し、新たな知恵を身につけながら日々成長しています。
「ヨハネ研究の森」の子どもたちは、21世紀の地球になくてはならない存在となるでしょう。